WORKS REVIEW
REPORT

executive向けセミナー

2021.04.22

オンラインセミナー「サイバーエージェントにおける、働きがいとエンゲージメント|サイバーエージェント」を開催しました

出演者

HRエグゼクティブコンソーシアム 代表

楠田 祐 氏

NECなど東証一部エレクトロニクス関連企業3社の社員を経験した後に1998年よりベンチャー企業社長を10年経験。会長を経験後2010年より中央大学ビジネススクール客員教授(MBA)を7年間経験。2009年より年間500社の人事部門を6年連続訪問。

株式会社サイバーエージェント 専務執行役員 人事管轄採用戦略本部長

石田 裕子 氏

2004年新卒でサイバーエージェントに入社。広告事業部門で営業局長・営業統括に就任後、Amebaプロデューサーを経て、2013年及び2014年に2社の100%子会社代表取締役社長に就任。2016年より執行役員、2020年10月より専務執行役員に就任。人事管轄採用戦略本部長兼任。

株式会社ワークス・ジャパン

成瀬 仁美 氏

2010年株式会社ワークス・ジャパン入社。企業の新卒採用支援の一環として、主に採用プロモーション/選考管理システムの営業・企画を担当。入社時から営業職に従事。

『やりがい』を生み出す仕組み―新規事業創出「あした会議」とは?

楠田
コロナ禍になってから、オンラインで仕事するようになったからか、「ワークエンゲージメントを高めるにはどういう人事制度にすればいいですか?」と企業からお問い合わせいただきますが、答えは制度ではないですよね。
石田
制度ではなく、カルチャーですね。
楠田
カルチャーを作るのにどうするかが極めて重要で、これはベストプラクティスが無いんですよね。制度はコピペで出来ますが、カルチャーは無理ですよね。トップがどうなりたいのかということと、人事がそれに対してどう向き合うのかということで、やがてそのカルチャーが徐々に制度になってくる。
石田
本当にそのとおりだと思います。
楠田
早速だけれども、サイバーエージェントにとって「働きがい」ってなんですか?
石田
サイバーエージェントにとっての働きがいというのは、一言で言うと「やりがいと働きやすさがセット」であるということですね。どちらか一方でもたぶん成立しないと思っていますね。なので、「やりがい+働きやすさ」双方あることで初めてワークエンゲージメントという概念というか、それこそカルチャーが生まれるんじゃないかと思っています。やりがいを生み出す仕組を一言で言うと「変化に対応し続けるカルチャー」とか「現状維持で満足しないカルチャー」とか「新しいことに挑戦し続けるカルチャー」を意識しているんです。何か一度小さい成功体験があると「これで勝ちパターンなんだ」というふうに進化を止めてしまう、現状満足してしまいがちになってしまうんですけれども、そうではなくてやはり時代もマーケットも、例えば消費者のニーズも変わっていきますし、そこを的確に捉えて変化に強い体質、カルチャー、組織体制を作るということがやりがいに繋がることなのではないかと考えています。
楠田
結果的にそのカルチャーがあるということは、会社、事業としても進化し続けますよね。
石田
言っているだけではなく、仕組みや受け皿がないと駄目ですね。その一つが新規事業です。サイバーエージェントという会社は、新規事業にとにかく積極的に参入しています。そのうちの一つに「あした会議」というものがあります。2006年ぐらいからやっているもので、1役員と4名の社員がチームを作るんです。活躍している社員をドラフト、指名をして、チームを組閣して、だいたい1か月ぐらい準備期間で会社の未来に繋がる経営課題を解決する案を提案するという会議体です。審査員として社長の藤田が出ます。「その案はもう参考にもならない」とか、「それはホームラン級のアイデアだね」、「もっとブラッシュアップが必要」等といったフィードバックを頂きます。
楠田
発表する人はすごい緊張感ありますよね。
石田
そうなんです。役員がチームを作るので、何か提案したものが余り大したことないものだと役員が恥をかきます。
楠田
役員もプレッシャーですね。
石田
そうなんです。それで順位も付くんです。1位から最下位まで。
楠田
その順位も、公開されちゃうのですね。でもそういうカルチャーだと、やはり何かアイデアを常に考える自分づくりもやっていきますよね。
石田
そうです。勿論「あした会議」という日が決められているのでそこに向けて追い込みます。ただ派生版も多くあります。「若手版あした会議」とか「部署版あした会議」とか。なので年中やっている感じですね(笑)。
楠田
そこから会社ができたりするのですか?
石田
勿論です。新規事業、新規会社もそうですし、あとは新しい取り組み、例えば人材育成で何か新しい施策を導入しましょう、というものが生まれたりとかもあります。
楠田
事業だけじゃなくて人事のことも。
石田
何でもです。誰から「あなたの部署のこれがイケテない」と言われるかわからない、みたいな緊張感もありますね。その場でアイデアが出る前に本来ならば潰しておかなければいけない課題とかも、フラットにズバズバ指摘される。それで点数も付けられる、みたいな場ですね。
楠田
これにチャレンジをするということがやりがいになるということですね。1回チャレンジして「しょぼいね」と言われたら、もう二度と「あした会議」には出れないのですか?
石田
そんなことないです(笑)。「あした会議」の一番良いところは、やはり藤田がリアルタイムにフィードバックするので、提案の内容もそうなんですけど「その視点が経営をしていくうえで足りなかったんだ」とか、「会社ってこういう方向で動いているんだ」、「こういうことを大事にしているんだ」という藤田の考えもリアルにわかるんですよね。そこで気付きを得る社員がすごく多くて一つの成長機会になる。それがやりがいにもつながっている、ということが実際に起こっていますね。要点だけ話して「こういうの如何でしょうか、やりたいです」と言う提案を藤田が3分で受けています。
楠田
提案は3分なのですね。3分というのは何か意図がありますか?
石田
全くないですが、ただ5分話しても3分話しても同じということです。要点だけでいいですし、〇か×かはっきりします。

楠田
つまりこれは、3分で人を動かすというリーダーシップ開発の育成の場でもあるような気がしてきました。
石田
おっしゃるとおりですね。人材育成になっています。例えば、実際にそこで「こういう会社を設立しましょう」と提案されて、すぐにその場で決議されて、「あした会議」が終わって2週間後ぐらいに会社が立ち上がっているぐらいのスピード感なんですよ(笑)。
楠田
人を動かすって、大きく分けて3つありますよね。1つが崖っぷちで背中を押す。2つ目は、頭で理解して動かす。でも本当の人を動かすリーダーは、相手の心に火を付ける、灯すということだと思っています。たぶん3分で藤田さんの心に火を灯すということですね。
石田
「あした会議」は本当に成功事例の一つだと言っても過言ではないと思っています。年齢とか関係なくて、新入社員でも、役員が指名さえすれば、ですね。
楠田
20年卒の内定者が社長になったと聞きました。
石田
そうですね。内定者からというのはよくあります。
楠田
これもカルチャーですね。
石田
それが許されるというか、それが当たり前で、もう誰も驚いていないというのがカルチャーですよね(笑)。社内では当たり前すぎて、若手でも1年目でも内定者でもチャンスがたくさんあるというその環境に誰も驚かなくなっているということは、たぶんもう根付いています。
楠田
会社を作って潰れちゃったら、その人はもう左遷ですか?
石田
全く無いです。若いうちからそういうチャレンジさせる環境を提供するということは、勿論、成功確率なんて高くありません。きっと藤田ももう分かっているのです。内定者で社長をして、100人いたらたぶん99人失敗するぐらいの確率だとは思っていますが、経営の経験をさせる、もっと言うと決断の経験をさせます。自分が意思を持って決断経験を積んで失敗して、そこから学んで次に生かすという、このサイクルを回すことに意味を見出しているんですよね。
楠田
なるほど。最近、上位校の学生でも、企業に就職するよりも、起業する人が増えていますが、アイデアすごくて技術もすごいんだけど、数年で潰れちゃいます。お客さんをどうやって掴んでいいかわからず、資金が入ってこなくなって潰れちゃうということなので、それならサイバーエージェントに入って失敗していった方がいいと思いました。
石田
本当にそうですね。ヒト・モノ・カネというリソースもそうですし、一人でやるよりも大きなチャレンジが当然出来るので。そういう意味では、経験をたくさん積んでもらって、そういうチャンスがある環境が今サイバーエージェントにはあると言っていいかなと思います。
成瀬
先ほど「あした会議」に参加出来る社員は、役員から指名があって、というお話しだったんですけれども、石田様は、どんな人を指名するのかを教えていただいていいですか?
石田
一つは、全社視点がある人ですね。全社視点と言っているのは、その自分の仕事だけ、そこでやるだけの結果を出していればいいという、やはり主語が「自分」というか、自分の成果だけに執着をしている人ではない人です。やはりサイバーエージェント全体の組織課題、経営課題を解決する場なので、全社視点に立ったアイデアを持っていかなければいけないんですよね。なので、自分のことだけではなく常に組織のこと、会社のことを考えている人を指名させてもらうことが多いですね。
楠田
とかく与えられた仕事に没頭していて気が付いたら40歳、とかってなっちゃうのが社会人ですが。
石田
そうですね。それもそれで素晴らしいと思いますが。
楠田
最近のサイバーエージェントはコングロマリットになっているので、全社視点って大変かもしれないですが、やはり理解していくことが重要なのですね。
石田
チーム・サイバーエージェントという意識でやっていますので、個人主義ではなくチーム主義、これもカルチャーですよね。自分の部署だけ分かっていればいい訳ではないです。
楠田
たぶん今日の参加者が聞いていて、明日からうちも「あした会議」やろうかなと思う人がいると思いますが、「あした会議」をやっただけじゃ難しいですよね。
石田
実はかなりいろんな企業の人事の方に私もお話しする機会が多くて、「うまくいった試しがない」と言われることが結構多いです。
楠田
たぶんその場に社長がいてそこで決断していないからですよ。何故駄目だったのかのフィードバック来ないとか。だから臨場感がないのだと思います、たぶん。何かそこに応募することが義務みたいになって、とりあえず出しておくか、みたいな。全社視点じゃない人だったら余計そう。だから元々土台にいろんなカルチャーがあって、そこに「あした会議」があるということですね。
石田
誰も義務だと思っていないです。そこも全然違うポイントで。「あした会議」に参加出来るんだという、それもエンゲージメントだと思いますが、そこに自分が参加できたら名誉という感じです。「成長機会をありがとうございます」、みたいな社員が多いですね。
成瀬
指名された社員が会議に出席して成長していく様を周りが見たら、またそこのブランディングで自然と良いサイクルになっているのでしょうね。
石田
おっしゃるとおりでネットの会社なので、例えばブログ、SNSとか、いろんなツールを利用して「あした会議」での学びを、これも義務ではなくて、みんな勝手に発信してくれます。そうするとそれを見て、また若手社員が「自分もいつか呼ばれたいから絶対頑張る」というふうに、いいサイクルが生まれます。それによって2006年から今に至るまで参加意欲がずっと薄れず継続が出来ているというかたちです。

『やりがい』を生み出す―若手抜擢の仕組み

楠田
それでは次のテーマ「抜擢の仕組み」についてお話を聞きたいと思っています。
石田
若手の抜擢の仕組みがたくさんありまして、ありがたいことに「若手が活躍している会社」というふうに、認知していただくこともすごく増えています。2020年度入社の新入社員がもう社長になっていたりとか、内定者でも社長になる機会があったりとか、本当に抜擢の仕組みはさまざまありますが、まず人事の考え方として「人はやはり抜擢によって大化けする」と思っているんです。抜擢には色々なかたちがあると思いますが、今申し上げたような社長をやるという経験も勿論一つの抜擢ですし、役割を大きくする、昇格するということも勿論抜擢ですし、例えば異動によって新しいチャレンジをする、そういう機会を与えることも抜擢だというふうにサイバーエージェントの中では捉えています。
 会社の規模も大きくなってきていますので、そういう意味では例えば若手をいきなり昇格させるというのが、昔ほど簡単ではなくなってきているというのが課題感としてあります。昔は、私の時代とかそうですけれども、入社2年目、3年目とかでいきなり「マネージャーやって」と言われることが少なくなかった。私自身もそうだったのですが、それはも完全に実力というよりは抜擢でした。そうやって簡単に若手を引き上げられていたものが、時代がちょっと変わって会社の規模も大きくなっていくと、若手抜擢の難易度が上がってきている。その中でも抜擢の仕組みをいくつも新しく作ることで、「20代でこんなにチャレンジ環境があるんだ、挑戦の機会があるんだ」ということをカルチャーにしてしまうということは意識してやっています。

楠田
早くマネージャーになるというのは、評価制度ですね。だけど、年功、年齢とかもう関係ないですよね?
石田
関係ないです。もう年功序列一切禁止。なので本当に抜擢をして、ある意味失敗させてというか、それも経験だというふうに捉えて若手にチャンスを与えています。
楠田
でも失敗させてと言っても、「失敗して来ます」という人はいないですよね。
石田
勿論です。「本気で成功させろ」というふうに送り出します。当然、成功確率が少しでもある、高いものに対してアサインをしているというところはあります。それが仮にうまくいかなかったとしても、そこから何かまた意思決定をして立て直すとか、何とかその打開策を見つけるという、この経験にこそ意味があるので、なので意図的に若い人にもどんどん任せていくということをやっています。
楠田
20卒の人がもう社長になってるって、会社作る社長はいいけどそこに経理部長とか人事とかいないと社員は増えてこないですよね。
石田
基本的には全社でフォローアップします。会社を巻き込んで一つのスタートアップの成功確率を高めるようなバックアップをちゃんとやっていきましょうという体制が出来ています。一つ一つの子会社が立ちあがるたびに新しく人事も経理も、みたいなことではないです。なので、抜擢が増えると結局チャレンジするポストも増えますし、周りも巻き込んだチャレンジの機会がベテラン社員でも増えていきます。全社のバックオフィスにいる人たちが、新しい事業に参入するということを会社で決めてそこに若い人をポストして、そこで成功させるためにアシストする人も既存の部署にいながら出来るので、そういう意味ではそれこそチーム・サイバーエージェントです。これも数年かけてやってきたことですね。
楠田
ではベテランの人、30歳ぐらいの方でも、抜擢はあるのですね?
石田
はい、これはオールジャンルというか、オール世代であります。例えば若手だと難易度が高い事業分野の場合は、例えば10何年経ったベテランの社員も抜擢をして社長を務めるということも少なくないですね。
楠田
だから人事の人があれだけの数の社員の人を良く見ていて、たぶんよく対話もしていますよね。
石田
すごく対話をしていますね。コンディションも見ていますし、「こういうチャレンジがしたい、新しい挑戦意欲が湧いてきた」とかって本当に読めないところもあると思いますので、リアルタイムに極力キャッチアップをしています。そして本人の意向と会社の提供出来るチャンスが合致したときに、本人の強みを生かした何かが生まれるのであれば、是非抜擢してチャンスを提供する。なので、それは見ていないと分からないですね。例えば「どこどこの部署の誰々さんは最近どうだっけ?」と言われても、殆ど答えられる人が多いです。もし記憶力が無かったとしても、データベースの中に全部溜まってるので調べます。
楠田
それなら会ったことなくても名簿でその人の経歴がわかりますよね。それでこの人あっちかな、みたいなことをやろうと思ったら出来ますし。一つの事業部で部下が200人もいたりすると、事業部長が話したことが無い人でも、定期異動みたいな建付けで動かすというのは結構あると思います。でもそういうやり方じゃないですよね。
石田
はい。一人の社員を結構多面的に見ているというか。上司も当然見ているし、人事も見ているし。それで人事も一人が、1対1で見ているわけではなくて、複数の人事がその社員の強みとか、例えば面談で1年前こんなこと言っていたとか、最近のコンディションは「晴れ」が3か月続いていますとか、全て分かっているという状態です。
楠田
それって今風な言葉で言うと、新入社員だけではなく、全社的なオンボーディングという感じですね。
成瀬
年間どのくらいの事業が新しく実際に立ち上がっているのですか?
石田
直近では年間10弱という感じですね。ただこれからは、今の時代なかなか参入出来る事業ドメインが限られています。やはり私たちも経験を積む中で「ここは参入しないほうがいい」とか、「参入したとしてもインパクトが弱い」とか「規模が出ない」とかいうことも分かっているので、そういう意味では、昔は本当に「1年に100個事業が生まれます」とか、「アイデアとしては200個出ます」みたいな時代もあったんですけれども、そこは精査をしながら、ただゼロには絶対にしない、常に新しいチャレンジを生み出すようなカルチャーを作っていますし、仕組みも設けている、ということをやっています。
楠田
サイバーエージェントさんは、やはり自分たちが事業でやってきているので、感度がいいですよね。
石田
元々藤田が、本当に目利きがすごいというのもありますし、経験上、広告であったりメディアであったりゲームであったり、投資部門であったりとか、そういう事業の柱が増えてきたことで、サイバーエージェントでやる意味とか、例えば他の部署とのシナジーが生める可能性があるのであれば参入するとか。やはりその新規事業に参入するのに、ちょっとずつ条件が追加されていっているというのも背景としてはあるかもしれないですね。
楠田
だから別の言葉で言うと、新しく会社を、事業を起こすということはお金もかかるので、サイバーエージェントとしては資金をそこに充てて終わりではなく、そのあと人事や経理がサポートしたりするという、真の意味のハンズオンですね。
石田
本当にそうだなと思ったのが、藤田のポリシーでもあるんですけれども、例えば、若手を抜擢して子会社の社長をやらせました、当然藤田は相談には乗るんですけれども、「自分で決めろ」と言うんですよね。当然子会社なので、親会社、株主はサイバーエージェント藤田なわけじゃないですか。なので普通だったら口出したいと思うんですよ。「こうやったほうがいい」、「それは失敗するからやめたほうがいい」とか、言いたいことってたくさんあると思うんですけど、一切口出ししないですね。若手抜擢のときに、チャンスを与える、場を提供する、会社を作る、だけじゃ駄目で、外野がいろんなことを言ってくると若手も、挑戦したくなくなってしまいますよね。自分で経営していない感じがするというか。そこの距離感とか、とにかく自分で意思決定をさせる。失敗もして、そこから学ばせるということが、セットで若手抜擢ということを促進してやっているという状況ですね。
楠田
やはり企業のトップなると、役員でも、部長でも、課長でもそうかもしれないけれども、口出すか出さないかって難しいですね。自分の子どもだったら口出ししますが、家庭のマネジメントとは違いますよね。
石田
そうですね(笑)。もう本当に。でもそれじゃいけないって、それだと育たないということも分かっているんですけどね。なかなか現実はうまくいかないですけど(笑)。
成瀬
採用という側面にフォーカスさせていただきたいんですが、「決める」ということが、御社に入社してということよりも、学生から社会人という切り替えのところで非常に重要なマインドセットというか、ポイントになるのかなと思います。御社が採用された新入社員の方はもうみんな決めれる方なんですか?入社するときに見極めているポイントなのか、それとも入社してからどういう関わり方をすると、自分事として日常の中で決めれるようになっていきます、ということなのか。そのオンボーディングのポイントを伺いたいと思います。
石田
選考において一番重要視しているのは、決断能力が高いかということではありません。ただ、素直に本当にいい人を採りたいと思っています。素直と言っているのは、変化に対応していく力がある人と思っています。それこそ明日からいきなり社長やってみてと言われたとしても素直に「チャレンジしてみよう」って思ってもらえて、そこからの決断力を後天的に、社会人になってから身に付けられるような人、というのを採用しています。なので選考もものすごく慎重に、どちらかと言うとカルチャーフィットしそうな人を採用しています。
楠田
カルチャーフィットを確認するのが、インターンシップですか?
石田
まさにそうです。就業体験ですからね。会社とはどういうものか一回体験してみる。なので会社は、学生を選んでいるわけではなくて、学生にも会社を選んでもらっている。そこでフィットすれば、入社を決めてくれる確率も高まりますし、入ってからも活躍してくれる確率が高まる、と考えていますね。なので、インターンシップは相当重要ですね。インターンシップを通して、いろんな意思決定が必要になってくる。当然、仕事していく時は一人で成果を出すだけではないので、チームでどういうふうに立ち振るまうのか、チームの中でどう意思決定を生み出せるかということなので、やはり選考過程の中でも決断する場面を散りばめているということは事実ですね。勿論入社後にも、育成によって、決断経験を提供することも意識しています。
成瀬
決断に踏み出す力とか、踏み出して人と一緒にそれを成し得ていくというところで、いわゆる社会人基礎力みたいなキーワードが、非常にちりばめられている、網羅されていると思います。

働きやすさを生み出す仕組み―社員へのフォローアップ「GEPPO」

成瀬
これまで「『やりがい』を生み出す仕組み」で、新規事業創出、抜擢の仕組みをご紹介いただきました。それをやっていくための仕組みとして、まず1つ目の「社員の方々へのフォローアップ」の取り組み等々をご紹介いただけますでしょうか。
石田
サイバーエージェントの人事組織の中に、「社員の挑戦を応援する組織」、元々発足当時は適材適所を促すというか芸術的な適材適所を実現する部署として、どちらかと言うと社内ヘッドハンターみたいな立ち位置で「キャリアエージェント」という組織を作りました。このキャリアエージェントという組織は、適材適所をメインミッションとしながらも、社員一人一人のコンディションを毎月追っていったりウォッチして、ちょっとでも懸念がある人に対してリアルタイムに介入をして解決をしていくみたいな役割を持っていたりとか、一人一人のコンディションをデータ化して、組織のコンディションも把握していったりという役割があります。あとは役員会でも実は、キャリアエージェントが集めた月次報告=「GEPPO」を使って、個人のコンディションの把握、あとは個人の強みの把握とか、経営へ提言する役割をキャリアエージェントが担っています。
石田
このGEPPOは、「あなたの成果、パフォーマンスどうでしたか?」 みたいなものや、「今のあなたの仕事の業務量は適切ですか?」、「上司とうまくコミュニケーション取れていますか?」 等を「晴天/晴れ/曇り/雨/土砂降り」で可視化するということがポイントです。包み隠さず、そのまま役員会へ持っていき、リアルな声を届けます。それで役員会でも、時間を取ってかなり人について議論をするんですけど、役員もトップも、ちゃんと誰がどういうコンディションで、こういう悩みを持っているとか、あの組織はこういう課題がありそうだということを分かっている状態を構築出来ます。ちゃんと仕組み化してデータベース化していますし、蓄積していて、過去のものまで全て見える化しているというのがこのGEPPOというものの特徴なんです。ただデータだけで判断をしないというのも一つのポイントで、データで回収しているんですけれどもアプローチとしては本当に個にフォーカスをしてアナログです。すごく泥臭くというか、一人一人話を聞いて、「確かにそこが問題かもしれない」と話し、それを解決するために、人事も動くし上司も動くし担当役員も動く。一つの声に対して本当に真摯に向き合って解決へ導く。そうでなければGEPPOに書いてもらう意味がないんですよね。「今月も取りました」「こんなデータになりました」ということを人事がしても仕方なくて、ちゃんとアクションまでセットでデータを集め解決に向けて動くということを意識してやっています。
楠田
例えば、月に1回のGEPPOで、いつも「晴れ」の人が急に「土砂降り」押しちゃったりしたらその人のところ行きますか?
石田
行きます。介入して、何があったかとか、何で悩んでいるか、何が障壁になっているのかということを聞いて、一緒にその解決をします。
楠田
個にフォーカスするということが重要で、テクノロジーを使うことによって、こういうパーソナライズが出来る時代になった。これがHRテクノロジーの真の使い方ですね。
石田
「こういう分析結果が出ました」とか持っていった日には、役員会で結構怒られると思います(笑)。生の声をちゃんと届けないと、ミスジャッジしちゃうとか、ミスリードしてしまうことにも繋がりかねないので、むしろ「ここは課題だから、自らそこを解決するわ」という役員も出てきたり、当事者意識を高く持って、みんなで解決していくところはすごく大事にしています。ちゃんと個でフォーカスをして、アナログに解決をして人をちゃんと大事にするところも、カルチャーなのかと思います。
成瀬
GEPPOを活用されて、見える化をして、それを運用していくには、人事の方がスペシャリストというか、「晴れ→土砂降り」の人に話を聞いて「そうか」だけで終わってはだめで、問題が何なのかを掴んでそれを解決するために人を巻き込みながら動かしていくという、人事自身もものすごくコミットメントも求められると思います。人事部として個と向き合うために必要なこととか、人事という局面において御社で大切にされているカルチャーとかがおありでしたら教えてください。
石田
本当におっしゃるとおりで、例えば人事がただ面談をする人とか、ただ書いたことをそのまま聞きに行って「はい、終わり」と言って蓋をしてしまう人だと何の意味も無くなってしまう。社員が書かなくなってしまいます。「解決してくれないなら意味がない」となってしまうので、どうせ聞くのであればちゃんと解決とセットという、スキルというよりは最初は意欲で十分ですが、そういうものがないとGEPPOというテクノロジーが機能しなくなってしまうのです。なので、大事なことはちゃんとその解決に向けて動くということ。何が問題点かを見抜く力も必要ですし、解決に向けて周囲を巻き込んでいく力も必要です。そのためには事業理解とかその組織の理解が高くなければいけない。なので、人事って本当に難しいと思います。すごくたくさん能力というかスキルがいるんだとは思いますね。私も人事に来てからより思います。
楠田
結果的にサイバーエージェントは透明性があるのですね。
石田
そうですね。何かを隠蔽したことはないです。
楠田
そこが重要だと思う。結果的に透明で、カルチャー、個にフォーカスしていますよね。「これから個にフォーカスだ!」とか言っている会社あるけど、定期異動やっていますし(笑)。やはりデジタルだけではなく人間同士で対話することは重要。チャットボットじゃ駄目だと思います。
石田
重要ですね。あとはやはりこの結果を、耳が痛いこともたくさん聞く、ちゃんと課題を直視する、受け止める力もリーダーに必要ですし、会社も必要だと思っています。なので透明にしなければいけないというのはそこで、リーダーにも会社にもどちらにも必要だと思います。「そこが出来ていなかった。反省してちゃんと次のアクションに繋げよう」という振り返る機会、反省ですよね。反省しながら受け止めて良い方向に変えていく、変化していく、ということが上司にもリーダーにも会社にも必要だということを感じます。

演出を大事にし、努力を惜しまず浸透させる工夫をする

楠田
昔、部屋ごとにくす玉があって、予算達成すると、くす玉がバーンと割れる演出がありましたよね。
石田
それは今もありますね。
楠田
オフィスの中の工夫もすごいですよね。
石田
演出をすごく大事にしています。
成瀬
カルチャーとか価値観はその取り組みとして感じ取ることも出来るかとは思うのですが、よくカルチャーとかというと社是とかが書いてあって、昔だと朝礼で読み上げたりしていたかと思います。目に見えないところに関してどうやって伝えていくのかとか、伝わっているかどうかをどう測るのかというところになると、やはり演出の部分でしょうか、何かその辺、具体的なところを是非シェアしていただければと思います。
石田
まさにカルチャーは一朝一夕で作られるものではないので。何か一つドーンってやって、いきなりカルチャーが作られるということでは無いと思っています。なので本当に細かい積み上げではありますが、例えばミッションステートメントという行動指針があるのですが、それを鏡に映して、社員の目に触れるところに最初は置いていました。それが浸透していったときに外して、次は例えば、「挑戦した敗者にはセカンドチャンスを」とか、「採用には全力を尽くす」とか、会社として大事にしていることがいくつかワッと並んでいるものがあるんですけれども、それをただ会社が、経営が言っているだけではなくて、実際にそれが実例としてあるとか、それが本当に根付いているものなんだということを、事例をもって作り出していく。それがカルチャーに結果的になっていく、みたいな工夫をしていたりします。あとは本当に小さいですけど、くす玉もそうですし、例えば新任社員とか中途入社で入ってきた人のオフィスのテーブルに、ウェルカムバルーンみたいなもの、名前も書いて、どこの部署に新しい方が入ったということもわかりやすくして、歓迎する風土とか、早く馴染めるように工夫をしていたり。本当に上げだすときりがないぐらいいろんな演出をしています。一言で言うと、会社が自分事化するというか「この会社で頑張ろう、成果出そう」と思ってもらえるような工夫をたくさんちりばめているとは思います。一体感をすごく大事にしています。あとは、そのときどきにスローガン的なものも出来たりします。例えば「低姿勢」というのをとにかく大事にしようというもの。1分、2分会議に遅刻しても大丈夫だ、みたいなこととかをもうやめようと(笑)。「低姿勢」なら「低姿勢」と打ち出して、そうしたら自販機から出てくるコップにも「低姿勢」って書いていたりするんですね(笑)。この1年はこういうスローガンで、全社で頑張るぞ!というメッセージですね。これも経営メッセージみたいなものを浸透させる仕組み、本当に手間暇かけて、努力を惜しまないですね。
成瀬
その言葉自体も、どの部署の人でもどの年齢の人でも受け取れる、すごくシンプルでわかりやすい言葉ですよね。つい営業部門だと、何億達成とか、新規獲得とかになってしまう。じゃあ管理部門の人はどう目指すの? というようなこともあるので、全社員が自分の仕事に置き換えたときに、この「低姿勢」というすごくシンプルでわかりやすい言葉のチョイスがさすがですね。
石田
目標を浸透させるとか、大事にしていることを浸透させることも、これもただ上の人が言っているだけだと浸透なんてたぶん一切しなくて途中で止まります。なので、組織が同じ目線を向くというか、同じ方向性で頑張るときに、それを浸透させる工夫がないと、目標一つ、スローガン一つとっても、ミッションステートメント、行動指針も、もっと言うと会社のビジョンもそうです。誰かが言い続けたくなるような仕組みをちゃんと作るのはすごく重要だと思っています。
楠田
このコロナ禍に入って、どこの会社も1年ぐらい在宅勤務というのを経験して、そういう中でテクノロジーをみんな活用するようになったなと思っています。オンラインセミナーとか、オンラインミーティングとか。だけどテクノロジーは管理・監視しやすい。People analyticsじゃないけど、使いがちですよね。でもこの会社無いんだよ、こういうの。
石田
確かに、もう信頼関係が前提としてあるので。もう一切そういう管理みたいなことは、全然無いですね。一方で、働き過ぎをちゃんと管理する、例えば時間外の労働が出ないようにコントロールするとかそういう管理はしますけど、人を見張ってサボっていないかみたいなチェックはしないですね。
楠田
現場のマネージャーも、人事も、経営も、みんな性善説をもとに。これは制度ではなくカルチャーですね。

人事制度設計の考え方―「挑戦と安心はセット」

成瀬
「働きやすさを生み出す仕組み」の最後のテーマ「挑戦と安心はセットの考え方」です。スライドのご紹介をお願いできればと思います。
石田
「挑戦しろ」と言って「頑張れ~」ってお尻叩くだけでも駄目ですし、心理的安全性だけ担保していても駄目です。このどちらもセットという考え方が根底にあります。良く人事の中で使っているものは、縦軸で「感情報酬⇔金銭報酬」。横軸で「挑戦⇔安心」というかたちです。これは前提として「制度を作らなきゃ」と言ってそこから制度内容を考えるという発想がそもそもないです。
楠田
感情報酬×挑戦のところには、「あした会議」ですね。
石田
これがまさに挑戦する機会とか挑戦する場とか。それって「あした会議」に出たことで5万円振り込まれます、みたいな話ではなくて、そこに選ばれて経営に対する提言が出来るという名誉です。それは感情報酬で、しかも挑戦に該当するという考え方です。これがバランス良く、それぞれ何かしら打ち手が打てているかということで、人事がよくチェックすることがあります。なので、これがマッピングして見たときに、各社さんの中で「ここが圧倒的に欠けている」とか、この打ち手が足りないということを可視化する、認識をするツールとしても使っていただけるんじゃないかなと思います。
楠田
この考え方、オープンにしてしまっていいのですね。
石田
はい、もう全然。
成瀬
そもそも安心と挑戦、その自分のセキュリティの範囲が、足元の範囲で出来ることと、少し中・長期的、タイムラインというんでしょうか、そういった考え方も当てはめていくと更に整理されるんですね。
石田
まさにそうですね。なので、挑戦と安心という考え方でやっている中で、今までご紹介をしてきたような仕組みでは、挑戦としては抜擢のカルチャーがあったりとか、「あした会議」のような会議体。安心と言っているのは、福利厚生であったりとか、あとGEPPOによって自分でアラートが出せる、何かあったときに上司に直接相談は出来ないけれども人事に知っておいて欲しい、みたいなことも叶えられる仕組みがある。これは安心という部類に入ってくるのかなと考えています。あとは、制度のネーミングはすごく大事にしています。制度設計を考える中でも、使われない制度は意味が無いと思っているんです。それがあることで社員が働きがいを感じるような制度でなければ意味が無いと思いますし。勿論、使われる制度だけ残していますし、もしそれが古くなって形骸化しているのであれば、メスを入れて、新しいものに変えていって、本当に変化に対応し続けることが前提で制度というのを考えています。なので、挑戦が出来る環境と安心出来る環境と、どちらも提供して組織も個人も自走出来るというか、自分で「働きたいな」と思えるような環境を作っているというのが、人事の根本的な考え方です。
楠田
こういういろんなものは、人事全体でミーティングして改善しているものか、トップから「明日からこれやるぞ」とやっているのか、二者択一なんですけどいかがでしょうか。
石田
人事が主導で考えることもありますが、殆どが社員からの声ですね。人事も勿論考えますし、想像力を膨らませて、「これが足りていないかも」ということを直視しながら考えていて提案することも多いんです。なので、答えとしては半々かなと思っているんですけれども、それこそ透明性がある社風なので、社員もどんどん提案してくれます。「こういうのがもっとあった方が良い」と。それが権利主張というよりは、会社を思っての提言という感じです。
楠田
マーケットインということですね。
石田
まさにそうです。「挑戦と安心はセット」の挑戦の部分なんですが、これも抜擢カルチャーが前提です。抜擢のフレームとか仕組みとか取り組みは「あした会議」以外にも、例えば新規事業の立案コンテスト、要は自発的に手を挙げていくような仕組みもあれば、会社が選抜をして「あなたたち、選ばれました」と言って、選ばれた人たちに1年間通して育成、幹部候補としての育成プログラムを作っていたりします。なので抜擢という大きいフレームの中でたくさんの仕組みをやっていることに、つい最近気付きました。挑戦も安心もどちらも、というのが今回のテーマですけれども、一番大事なポイントは、数を増やすことがゴールなのではなくて、その中でワークエンゲージメントを高めるために、もっと言うと会社が業績をより上げていくために必要なものをちゃんと取捨選択して残していくとか、今まで良かったものをそのまま過去のやり方でやり続けるのではなくて、毎回毎回ブラッシュアップしていくこと、工夫し続けるということが必要なのではないかとは思っていますね。
楠田
これからの時代は、ワークライフバランスからワークライフインテグレーション。ワークライフインテグレーションって「生活の中に仕事がある」。バランスではないですね。生活の中で仕事をしながら、モチベーションも上がるし、挑戦も出来るし、何か新たなる仕組みというか、カルチャーですね。是非在宅勤務している人から声を聞いてサイバーエージェントさん、何か作って。
石田
私はちょっとそんな感じなんです、個人的には。仕事とプライベートというか、生活が切り離せているものでもなくて、バランス取ろうなんて思ったこともあまりないです。誤解を恐れず言うと、もう生活の中に仕事があって、生活の中にプライベート、育児があったりみたいな感じで仕事しているので義務とかやらなければいけないとかという感じでやっていないんですよね。
楠田
だから、やはりワークライフインテグレーションをどうやっていくかというのは、これから考えなきゃいけない中で、是非サイバーエージェントさんも何かやっていただくといいんじゃないかな。
石田
はい、ありがとうございます。
成瀬
では最後に、一言、メッセージを頂戴できればと思います。
石田
今日は本当に私自身も大変勉強になりまして、やはり働きがい、ワークエンゲージメントってカルチャーそのものなんだ、カルチャー作り、企業風土づくり、組織風土づくりが本当に直結するものなんだと改めて思いました。サイバーエージェントも偉そうにこれだけ事例としてご紹介してしまったんですけれども、全然まだまだでして。まだまだ手探りでこれからもっといい会社にしていきたいと思っていますので、一つずつ古いものを壊して、駄目なものは止めて、新しいかたちを模索していきたいと思っています。今日はありがとうございました。
楠田
すごく勉強になりました。誠にありがとうございました。